お姉さまのお得意様|中田さま

ある土曜日の早い時間、初老の男性と、明らかに付き合いで来たような40代くらいの男性が来店した。

 

初老の男性は中田さま。重鎮のお姉さまのお得意様だ。

 

当時、入ったばかりのわたしは当然中田さまの事を知る由もなく、ペルプとしてもう一人の連れの男性(フリー)に着いた。

 

「こんばんわ~、いらっしゃいませ。しんこです」

 

「…あ、うん。なんか飲んで」

 

と一言。

連れのお客様はわたしを一瞥すると、さっさと中田さまの方に身体を向け、中田さまの「演説」に耳を傾けている。

 

(ほぅほぅ…実権はずべてこのお爺さまにあるわけですか…じゃぁこのフリーは引けないかな~)

 

「引く」とはお客様をものにすることである。次回からそのお客様に指名をもらうべく、キャバ嬢は必死に自分を好きになってもらい、引くのである。

 

「ありがとうございま~す、いただきます♥」

 

わたしはお姉さまに軽く会釈をし、ドリンクをオーダーした。

 

仮にこの中田さまのしもべのような男性を引くことができないとしても、ペルプ業務は大切である。ましてや、重鎮のお姉さまのお得意様(らしい)ときたら失敗は許されないのだ。当然楽しんでいただき「中田さまの行かれる店はやはり良い子が揃ってますね」くらいの言葉を引き出させなければ仕事をしたとは言えない。

その間、中田さまは演説を続ける。

 

「うちの奥さんはサイコーのなんだよ!」

「奥さんのこんな面白い話が合ってさ~」

「まったく頭が上がらないよ~」

 

演説の内容は「奥様自慢」

 

珍しいタイプではあるがたまにいらっしゃる。

 

ところが、重鎮のお姉さまも連れのお客様もどうやら「この演説」は初めてではないらしい。ニコニコうんうん相槌を打ってはいるが、いわゆるオチでは大した笑いも起きないのだ。

 

しかし、わたしにとっては初めての演説。ふつーに聞けるし笑える話だ。席全体が「中田さまの独演会」になっている以上、真剣に話を聞いて笑えば場が成り立つ。

 

わたしは身を乗り出して話を聞き、少しだけ大げさに笑った。すると中田さまが初めてわたしに話しかけてきた。

「君、なまえは?キレイな子だね!」

 

「ありがとうございます、しんこです」そしてわたしは言葉を続けた。

 

「とても素敵な奥様ですね!わたしファンになっちゃいそう!」

 

「ハッハッハッハッ!!!そうだろ?凄いだろ?笑えるだろ?」

 

「はい!も~最高の女性ですね!憧れちゃいます~!」

 

自分では全く意図しなかったとはゆえ、おそらくこの会話で今後の情勢が変わったと言えよう。中田さまはその後わたしを場内指名し、大変満足され店を後にした。

 

そして、翌日。

 

重鎮のお姉さまがお休みの中、中田さまは再びお店を訪れ、なんとわたしを本指名したのだ…

 

お姉さまからの指名替えである…

TO BE CONTINUE…

 

 

 

 

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